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HRN事務局長 伊藤和子

  誕生したばかりのヒューマンライツ・ナウを支え、励まして下さっている皆様、日ごろのご厚情に、心から感謝いたします。

  人権を守るために声をあげ、行動したことを理由に拘束され、殺される弁護士・人権活動家たち、貧しい農村から都市に売られ性的搾取される子どもたち、結婚前に恋愛をしたために、火をつけて焼かれる女性、そして武力紛争の中で標的とされる罪もない人たち、私たちの隣国であるアジア諸国では、今でもそのような人権侵害が続いています。
  一方で、とても感動するのは、そんな困難な中でも命を堵して、人権が保障され紛争のない社会をつくるために活動する、力強いアジアの友人たちの存在です。彼らはネットワークをつくり、少しずつ前進しています。
  ヒューマンライツ・ナウは、そんな友人たち、アジアで活動する人権NGO・法律家の仲間たちと手を携えて、アジアの人権状況を改善し、自由で平和で抑圧のない地域、そして世界をつくるために、貢献していきたいと考えています。

  まだ出来たばかりのヒューマンライツ・ナウの活動には、試行錯誤も続くことと思いますが、5年後、10年後を見据えて、アジア地域の人権状況にとって価値ある活動を展開する人権NGOになっていくよう、全力を尽くしたいと思います。今後ともみなさまのご協力をよろしくお願いします。

弁護士 伊藤和子


ヒューマンライツ・ナウの目指すもの

 
ヒューマンライツ・ナウ事務局長・伊藤和子弁護士にきく

1994年弁護士登録  東京弁護士会所属。 弁護士登録以来、冤罪・子ども・女性の権利など、人権に関わる事件をてがける。2004年よりニューヨーク大学ロースクール客員研究員として留学、その後、ジュネーブ国連人権小委員会インターン、ニューヨークで国際人権NGO Center for Constitutional Rightsのインターン、NGO国連代表代理などを経て帰国。2006年7月にヒューマンライツ・ナウの立上げに関わり、現在事務局長。ほかに、東京弁護士会両性の平等に関する委員会委員長、日弁連国際人権問題委員会幹事など。主な著作は、法学セミナーに連載した「国際人権法ワールドレポート」(日本評論社)、「誤判を生まない裁判員制度への課題」(現代人文社)など。

 ヒューマンライツ・ナウはどんな活動をするNGOなのですか?
ヒューマンライツ・ナウは、国境を越えて、世界・特にアジア地域の人権問題の解決のために活動するNGOです。 世界の人権侵害をウォッチすること、レポートすること、そして政策提言をすることが私たちの活動の柱です。 世界を見渡すと、日本では想像できないようなひどい人権侵害によって、弱い立場の人たちが犠牲になっています。私たちは、こうした人権侵害に光をあてて、世界に発信し、改善を実現するための政策提言を行います。ヒューマンライツ・ナウのプライオリティは、もっとも深刻な人権侵害をなくす、そして女性や子どもなど、最も弱い立場にいる人たちの人権を守る、そのために最善を尽くすということです。
 このような団体をつくろうと思ったきっかけは?
私は1995年に、国連の第4回世界女性会議のNGO会議に弁護士として参加し、アジア・アフリカから参加した女性たちの実情を聞いてとてもショックを受けました。インドでは持参金の金額が少ない、という理由で、1日100人近い女性たちが夫やその家族から殺されています。フィリピンやタイでは、多くの少女たちが農村から売られて、売春を強制され、エイズにかかって死んでいました。ルワンダから来た女性は、内戦によって、夫も子どもも目の前で殺された上、レイプをされた、たくさんの女性が同じ境遇にある、と証言しました。同じ地球に住んで同じ時代を生きているのに、なぜ彼らの人権はこんなにもふみにじられているのか、市民として、法律家としてできることはなにか、と思ったのがきっかけです。その後ニューヨークに留学して国際人権法などを学び、NGOの立場で国連の活動に参加するうちに、欧米には、世界の人権問題に取り組み、国際世論を動かして事態に変化をもたらしている人権NGOがたくさんあることを知りました。そして、私を含むニューヨーク留学中の日本人の若手弁護士の呼びかけで、国境を越えてグローバルな人権問題を専門に扱う日本発のNGOを立ち上げることになり、2006年夏にヒューマンライツ・ナウを発足したのです。
 世界には、貧困やエイズ、紛争、難民など様々な問題がありますが、なぜ「人権」に取り組むのでしょうか? 
人権は、人間らしく生きるために、すべての人にとってかけがえのないものです。紛争の過程では生きる権利、暴力を受けない権利が脅かされますし、貧困は、食べたり、学校に行ったり、家に住める、というあたりまえの権利を奪っています。私たちは人権、という視点から世界の問題に取り組むのです。
紛争や飢餓など、人道的な危機が発生したとき、ユニセフなどの国際機関やNGOが難民キャンプなどに薬や食糧を届けるなどの人道援助活動をしますね。こうした活動は本当に大切ですが、一過性のものに終わりがちです。私たちは、長期的な視点にたって、社会の仕組みを「人権」の視点で変える、ということが大切だと思います。なぜ、人道危機が起き、貧困が進むのか、その背景には人権侵害が放置される社会の仕組みがあると思います。 
具体的にはどういうことでしょうか?
例えば、女性に対する暴力が横行し、「暴力の文化」が支配している地域は、紛争を生みやすい土壌がありますし、暴力や紛争が日常的な地域では、貧しさから脱却するのも困難です。何より人々が安心して自分らしく暮らせる社会ではありません。例えばアフガニスタンでは戦争後もそういう状況が続いていますが、そういう国は世界中にあります。エイズが世界で拡大する背景には、横行するレイプや人身売買などの人権侵害があります。私たちは根本にある人権侵害の問題に光をあてて改善することが、問題の根本解決につながると思っています。
約100万人が虐殺されるという最悪の人権侵害がおこったルワンダについて、世界は「国際社会がもっと早く、ルワンダの人権侵害の深刻さを認識して行動していたら」という深刻な反省をしています。早めに警告を発して国際社会が動けば、多くの人を悲劇におとしいれる人道危機を未然に防ぐことができるのではないでしょうか。
 日本のNGOが海外の人権について発言することにはどんな意味があるのでしょうか。
日本は、アジアのほとんどの国に対して、世界一の多額の経済援助(ODA)をしています。
しかし、人権状況に問題の多い国に対して、なんの批判もしないで、多額の経済援助をすることが多く、これでは結果的に、その国の人権政策にゴーサインを出している、というメッセージを送ってしまいます。また、日本のODAでダムや道路を建設するプロジェクトは、多くの人を先祖の代から住み慣れた大切な土地から追い出したり、環境を破壊したりして、貧困や人権侵害を助長することもしばしばです。日本がODA予算を、人権をふみにじるのではなく、人々のかけがえのない権利を発展させるプロジェクトに配分すべきで、そうした政策転換を通じて、アジア地域の人権を前進する役割を果たすことができます。また、ODAの影響力を背景に、もっとアジア地域の人権について積極的に発言することもポジティブな変化につながるはずです。私たちの税金の使い道が、人権状況に大きな変化をもたらすことができるのです。 
また、アジアに位置する日本の利点として、欧米的な価値観を一方的に押し付けるのではないアプローチで人権のための提言を行うことができる、それが変化をもたらしうる、と私は思います。
 日本発で、どんな活動をしていくのですか?
光のあたっていない深刻な人権侵害について調査し、レポートを発表します。ヒューマンライツ・ナウのスタッフには国際人権法を専門とする法律家が多いので、法律的な勧告も行います。日本政府、日本の市民社会に影響を与え、国内でのロビー活動を行いますが、同時に、国連や現地政府への直接の働きかけを、世界の人権NGOと一緒に行います。国際的なメディア、NGO、国連の専門家にもレポートを送って、国際社会として人権侵害に苦しむ人々のために何ができるか、取り組みを促していきます。 また、アジア地域の若い人権活動家にトレーニングを行うなど、困難な中で活動している人権活動家への様々なサポートもしています。
具体的には?
例えば、フィリピンでは、人権活動家の暗殺が相次いでいて、軍が暗殺に関与しているとされているので、助けてほしい、というフィリピンの法律家の要請をうけて調査ミッションを派遣し、犠牲者の遺族や証人にインタビューをして、政府の責任を問い、国際的に注目され、私たちの現地記者会見は現地新聞の一面トップに登場しました。 日本政府に対しても、最大援助国として、人権の改善に役割を果たすよう、あらゆる協議の機会を通じて働きかけています。最近では私たちをふくむ国際的な監視のせいもあって、フィリピンの人権活動家殺害は減少しつつあります。
僧侶や市民の民主化活動が武力弾圧されたビルマに関しては、国境地帯に二度、調査ミッションを派遣し、国内での意識喚起につとめています。また、タイ・ビルマ国境で、みらいのコミュニティ・リーダーや法律家を育成する学校、ピースローアカデミーを支援しています。この法律学校では、ビルマ国内では教えられない人権や民主主義を少数民族の若者に教えて、エンパワーメントにつなげようとしています。
カンボジアでは、1970年に当時政権をとっていたポルポト派が、たくさんの市民を虐殺し、拷問し、知識人のほとんどが殺されたと言われています。この人権侵害の加害者の責任を問う裁判「クメール・ルージュ法廷」がやっと発足しましたが、ヒューマンライツ・ナウはこのプロセスに人権侵害の被害者が参加することが重要だと考えて、国際団体としてはいち早くこの問題で意見書を作成してロビー活動をしました。その結果、この法廷に被害者が参加する制度が確立され、被害者をサポートするユニットも実現し、被害者が事実を語りはじめました。
人権侵害を告発してその停止を求め、国内外の世論に働きかけること、人権侵害のない社会をつくるための人材を育てるお手伝いをすること、さらに、いったん起きた人権侵害が二度とくりかえされないように、真相を究明して責任者を処罰するプロセスをたすけること。それぞれに重要だと思っています。

 女性に対する暴力に関するプロジェクトがはじまったそうですが。
 女性に対する暴力のプロジェクトを立ち上げました。女性に対する暴力の実態を告発して、その原因- 例えばそれは法律だったり、司法制度だったり、慣習だったりするわけですが- を明らかにし、改善の提言をする、というものです。アジア地域を皮切りに、毎年1カ国をターゲットにして、調査・訪問を行ない、是正のキャンペーンを行います。アジアの女性団体と連携して、私たちの調査・提言を、現実に変えていきたいと思います。最初のターゲット国はインドを考えています。
 市民はヒューマンライツ・ナウの活動に参加できるのですか? 
 いまは、法律家・学生が会員の多くを占めていますが、私たちは、多くの市民の方々に会員になっていただきたいと思っています。世界の問題を解決するのにも、まず自分の周り、そして日本国内で意識喚起が進むことが大切だと思います。まず1人でも多くの方に人権侵害について知ってもらい、それを周りにいろんなやり方で伝えてほしい。是非、キャンペーンを担う活動に市民の方々に参加していただければ、と思っています。
ヒューマンライツ・ナウの活動資金はどこから来ているのですか?
 ヒューマンライツ・ナウは、会員の皆様からの会費収入、民間からの寄付と助成のみによって財政を支えています。現在は、法律家や研究者などが主にボランティア・ベースで活動を支えていますが、将来的には、欧米のようにフルタイムで弁護士・ジャーナリスト・キャンペーン担当などのスタッフをたくさん雇って、国内でも国際社会でも影響力を強めていきたいと思っています。是非、多くの方にヒューマンライツ・ナウを財政的にも応援していただけると嬉しいです。